彼が一生懸命ドレスを選んでくれました

照れ屋な彼ががんばってウェディングドレスを選んでくれました

彼を私に紹介してくれたのは父親です。市役所勤めの父が部下の彼を見込んで私と引き合わせたのだそうです。とは言っても、わざわざお見合いの席をもうけてというわけではなく、父と私の趣味である海釣りに彼を誘ってという形でした。私は彼に対して無口で真面目な人だなあと感じると同時になぜか不思議な親しみを感じました。帰宅して父に『彼はどうだ』と聞かれて『良い人そうだよね』と答えました。

彼の方は私のことをどう思ったのかは聞かされませんでしたが、数日後、父から『二人ででかけてきなさい』とお小遣いを渡されました。こうして私達の交際は始まり、半年後には結婚することになったのです。彼は忙しい部署にいたので、結婚のために会社をやめていた私が主に式の手配に走りまわることになりました。

何でも私の好きにして良いと言われて最初は喜んだものの、準備の大変さに段々とストレスがたまっていきました。指輪を買う時はさすがに一緒に行ってくれたけれど、あとはすべて私任せなのです。いくら忙しいとはいえ、この人やる気がなさすぎるんじゃないの、とイライラしました。

それが爆発したのは衣装選びの時です。『君の好きなのを選べばいいよ。僕のはサイズさえ合えばいいから適当に決めておいてくれ』と言われて堪忍袋の尾が切れました。『一緒に選んでくれないんなら結婚するのやめるから』と言い切ってやると、彼は慌てた様子で一緒に行くと言ってくれました。それでも私のイライラはおさまらず、険悪な雰囲気で衣装選びに向かいました。

意地悪な気分になっていた私は、そこで『私のドレスはあなたが選んでよ』と言ってみました。当然、彼は困っていましたが知ったことではありません。その時、私の胸のなかには怒りとともに不安が膨らんでいたからです。彼が私との結婚を決めたのは上司である父に逆らえなかっただけじゃないの?だからこんなにやる気がないんじゃないの?そんな疑惑が次から次へとわいてきていました。

彼はきょときょととドレスを見比べていました。見かねたプランナーさんがアドバイスをして、最終的には候補は三つに絞られました。プランナーさんが勧めてくれたのは、私も内心気に入っていたショート丈の可愛い感じのものです。どうせ彼もプランナーさんの意見に同意するんだとうと思っていたら、『僕はあれが良いと思う、白い花がいっぱいついている』と横に並んだもう一着を指差して言ったのです。

彼が選んだドレスはエンパイアラインで胸元に白い小さな花がいくつも飾られているものでした。どうしてあれなの、と聞くと『君は白い花みたいだから』という驚きの返事が返ってきました。どんな顔でさっきの台詞を言ったのかしらと思わずまじまじと見たら、彼の顔は真っ赤で汗まで掻いています。現金なものでその瞬間、それまでのイライラが吹き飛んでいったのです。

彼の選んだドレスを着て迎えた式の当日、ハプニングが起こりました。披露宴の最後の挨拶で、まずは父が私たち新郎新婦への餞のスピーチをし、次に彼が来賓の皆さんにお礼を言う予定だったのに、緊張していた父が、なぜか来賓へのお礼の言葉をしゃべってしまったのです。横から見ていて彼の顔が青ざめていくのがわかりました。そして、自分の失敗に気づいた父の顔も同じようにひきつっていきました。

二人の表情はそっくりで、彼に初めて会った時に親しみを感じた理由はこれだったのだと思いました。真面目で無口で気の利かない不器用な、でもとても誠実な人。彼は父によく似ていたのです。冷や汗をかく二人の横で私は込み上げてくる笑いを隠す為にそっと顔をブーケで隠したのでした。